※このページは小川勝己の小説「眩暈を愛して夢を見よ」のネタバレ作品解説です。
楽しみが無くなりますので読んでない人は当ページは絶対に見ないように。
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- | ややこしくて難しいですね。このページでもどう説明すれば良いのかわからなくて大変です。 ネタバレページとしてはわかりにくく失敗かもしれませんが、できるだけまとめます。 ![]() 本当の意味での現実というのはプロローグとエピローグだけ。 あとは第一部〜第三部までは柏木美南の創作というか想念の世界だったのである。 「ぼく」こと須山隆治と、「おれ」こと須山隆治は、現実の須山隆治に失望した柏木美南が作った理想2パターン。 どんな時でも思ってくれる「ぼく」と殺そうとする「おれ」。第一部の冒頭で引用されているように 『常に自分のことを考えている人間がいる、という状況は官能的ですらある』ということなんであろう。 しかし柏木美南は自分の体験しか書けないような女で、できそこないの探偵小説ような世界しか 作ることができなかった。だから矛盾や齟齬があちこちに現われて、創作および想念の世界の 住人である軽部まいに見抜かれてしまった。自分達は作られたものでここは創作なんだと。 ![]() 上で書いたように自分の体験しか書けないような人間だったために 作中の登場人物が経験したことや生活環境は現実の柏木美南が体験したことが多い。 『犬』『化粧』『退職後の事情』もそうだったし、「ぼく」らがいる世界でもそうであることが証明されていく。 さらには作中の柏木美南の情報もそのままだし、現実と思って読んできた第一部が 第二部で『どんぐりころころ』や『DISILLUSION』として出てきたりすると読者としては どこまでが創作でどこまでが現実か境界線を曖昧になる小説ですね。 ちょっと長いけど簡単に順を追って並べてみました。 〜プロローグ(現実世界)〜 鈴木久恵という少女が児童公園で女の子と一緒に木からぶら下がった人間らしいもの発見。 〜第一部〜 1、「ぼく」こと須山隆治が里山リサと出会い、柏木美南が失踪したことを聞く。 服部裕哉がらみの諍いが原因かもしれないから気になるのだという。 一、「おれ」が刑務所から出てくる。柏木美南を殺すために東京へ行く。 T、「わたし」が<標的>を殺害し、ナイフで腹部を裂きどんぐりをつけて池に沈める。 2、「ぼく」と高校の二年先輩の柏木美南との出会いから、AV界での再会、柏木美南の性格なども紹介。 バイトの同僚・軽部まいが登場する。店の前に男が立ってて驚いたという美南と同じような経験談を語る。 ヴァイラスの同僚・猪瀬に会う。柏木美南について問い合わせた男がいる情報と服部裕哉の死を告げられる。 二、「おれ」が探偵に柏木美南について調べるよう依頼する。小さな劇団も訪れる。 U、「わたし」がタクシーを使い標的のアパートへ行き金属バットで殴殺。 3、「ぼく」が柏木美南オタクの小沢宅を訪問し「天使noふらいでいないと」のビデオをもらう。 里山リサとそれを見る。どんぐりちゃんと呼ばれる柏木美南が映っている。その後バイト。 バイト後帰宅。深夜蓬田一郎と里山リサと会う約束をする。 三、「おれ」が探偵の報告を聞く。一貫性のない柏木美南の報告。 V、「わたし」は死体をパックにつめる。その後TELで童謡を聞かせている。 4、「ぼく」が蓬田一郎と里山リサと会う。柏木美南を侮辱していた三人(日高・深見・馬淵)について聞く。 日高の夫が刃物で延髄を切られクラブのトイレで殺されていることを知る。そして日高宅に童謡のTELが。 馬淵も池に沈められ殺されていて、服部裕哉もどんぐりを浴槽に浮かべられ殺されていることが知らされる。 「ぼく」が小さい頃に助けられたお姉さんのことを回想。ひょっとして美南さんだったりして、なんて考える。 四、「おれ」は小さい頃に不良を殺した柏木美南の身代わりに鑑別所へ行った。 恩も忘れて、芝居の切符のために男と寝ている柏木美南に怒り男を殴り刑務所へ入れられた。 こうして柏木美南に対する恨みだけが残った。 W、「わたし」がトイレでナイフを使い標的を殺している。 5、「ぼく」は高校の同級・大塚に柏木美南のことを調べてもらった。誰とでも寝る女で、先輩の宮前も誘って 寝ていたと聞く。柏木美南は無理心中した夫婦の残した赤ん坊で養女だと聞く。父は痴呆で妻を刺したらしいし 柏木美南は家族とは縁を切られているようだ。ぼくは宮前宅にコンドームと嫌がらせメモを投函。 五、「おれ」も平抹で柏木美南について調べていた。柏木美南は四五歳の頃に首をくくろうとして 失敗し通りかかった二三歳上の男の子に助けられたらしい。男の子はその後引っ越していった 柏木美南は「また会おうね。おにいちゃん」と手を振って見送っていたのだという。 X、「わたし」が男の子にこづかいを渡す。「くれたのはどんぐりちゃんだ」と伝言させる。 〜第二部〜 6、「ぼく」は柏木美南がかつて在籍したミステリサークル時代の小説を読み始める。 『犬』『化粧』『退職後の事情』すべてが酷評されてしまう。退職後の事情は自分の父がヒントになっていると感じる。 さらには『DISILLUSION』という小説があり、第一部の一の「おれ」が描かれている。 六、「おれ」は東京にもどることにした。 Y、「わたし」がガソリン入りペットボトルで標的の家を放火。 7、「ぼく」のアパートを軽部まいが訪れ鍋をはじめる。『夢・現』という脚本を読む。 里山リサからTEL。深見が柏木美南を恐れている。息子に小遣いを渡したことと、小火騒ぎのこと 日高・深見・馬淵らが当時柏木美南を陵辱させたりしてからかい『どんぐりころころ』を歌っていたことを聞く。 七、「おれ」は柏木美南のアパートへ来た。『犬』『化粧』『退職後の事情』のワープロ用紙と 数冊の大学ノートが発見される。そこには『どんぐりころころ』という須山隆治名義の小説があった。 それは第一部の1の「ぼく」が描かれている。 Z、「わたし」は標的の背中を刃物で刺して殺した。 8、「ぼく」のアパートへ警察がやってくる。軽部まいが殺されたのだという。 蓬田一郎と里山リサがやってきて「ぼく」を糾弾する。「ぼく」が柏木美南を殺してしまったのだと。 そしてそれを忘れるために柏木人格を作り出している。そして屍蝋化した柏木美南の死体を押入れに 置いておきながら認識せずにダッチワイフだと思い込んでいる。日高・深見・馬淵らへの危害も 柏木人格によって行われていたのだ。軽部まいもお前が殺していたのだ。 と問い詰められた「ぼく」はアパートのベランダから飛び降りた。 ![]() 柏木美南を殺してしまったことを認めたくなく柏木人格を作り上げてしまいそれが殺人を続けた。 それによるとTは馬淵。Uは服部裕哉。Vは猫を馬淵宅に送り、日高宅へ童謡TEL。Wは日高夫。 Xは深見宅の息子。Yは深見宅。Zは軽部まい。ということになるのかな、と読者は思う。 この場合順序的にT・V・Wの順序が変てこなのだが、この時点ではそうとしか解釈できない。 〜第三部〜 9、軽部まいがこれまでの第一部・第二部「ぼく」パートの書かれたノートを発見し須山隆治の手記だと思い読む。 しかし事実とは異なる点を見つける。8でやってきた刑事はニセモノであるし、柏木美南の死体を押し入れに 置いていて認識しないようにしているというが、実際にまいは死体が無く人形があったことを見ているし 8で行われた屍蝋に関する説明も間違っているし、服部裕哉の居所を知っていたことなど間違いだらけだ。 何よりも自分が殺されてないのだからこれは柏木美南の作り話で、発言の不自然さなどから情報の共有をしている 蓬田一郎・里山リサそしておそらく猪瀬・小沢らもグルで柏木美南が描いたシナリオ通りに須山隆治を はめたのではないか、と想像する。どんぐりころころ事件自体を捏造し追い込んだのだと想像した。 ↓そして 10、柏木美南のシナリオでは須山隆治の中の柏木人格が連続殺人をしたことになっているため 「須山隆治=柏木美南」という式が成立している。(←もちろんどんぐりころころ事件というのは実際はない) それが気に食わない軽部まいは柏木人格が行ったことになっている連続殺人を実際に血と肉を流し行うことで 自分の手記を一人称「わたし」として、須山隆治の手記に挿入していけば「わたし=ぼく」になると軽部まいは思う。 その実際に起こす殺人で犠牲となるのは須山隆治をはめたやつらだ。 ![]() どんぐりころころ事件は柏木美南のシナリオで、須山隆治をはめるべくグルになって作られたもの。 それにはまって隆治は死んでしまった。残された手記からそれを推理した軽部まいは 架空のどんぐりころころ事件のような連続殺人を現実にお前らでやってやろうやないかいと思って T、里山リサ殺害。U、小沢勝己殺害。V、蓬田の猫殺し&TEL。W、猪瀬殺し。 X、美南と暮らす蓬田の子供の誘拐未遂。Y、蓬田の家に火をつけ。Z、蓬田を殺害し、手記に挿入。 読者的には「T〜Zは「ぼく」須山隆治が馬淵や服部を殺したのではなくてあとから軽部まいが 実際に殺害を決行して挿入したという趣向になってるわけだな」と思うわけです。ややこしい話ですが 我々から見る作中人物の軽部が、軽部が思う美南のシナリオに自らの作品を入れたのが小説となっている。 11、「おれ」が軽部まいを訪れる。「おれ」は七で見つけた須山隆治名義のどんぐりころころというノートを持っている。 軽部まいも持っている。これが一体何なのか議論を始める。美南の年齢が年下になったり高校の先輩になったり 須山隆治が二階から落ちて死んだり、まいはこのノートの矛盾について次々と言及していく。田舎がどこなのか 思い出せないことや、手記に引用されている『天啓の虚』は現時点(まいやおれのいる世界)ではその文章が 登場していない。書割みたいなこの世界は柏木美南の創作の世界、夢の世界なのだと軽部まいは推理した。 そして「おれ」が須山隆治だと名乗ったことから軽部まいはさらに推理した。現実で柏木美南は須山隆治という 人物に恋した。おそらくは子供の頃に自殺しようとした柏木美南を助けてくれた須山隆治。女優になることができず AV界に須山隆治を追っていったが、実際はたいした男ではなかった。だから理想の須山隆治を創作の中で 二パターン作った。それが柏木美南を愛する「ぼく」と殺そうとする「おれ」だった。どちらも思いは違えど 自分に執着してくれる存在だったから。これがほぼ正解の答えでした。 〜エピローグその1(現実世界)〜 首を吊っていた柏木美南を鈴木久恵らがおろし救急車を待つが息絶えてしまう。 死ぬ直前に「やっと会えたね、おにいちゃん」 〜エピローグその2(現実世界)〜 柏木美南の生い立ちが語られる。シャム双生児のように死体がくっついた身元不明の夫婦から 赤ん坊が取り出され柏木家に引き取られたのだ、という5で聞いた話とほぼ同じ。 ![]() でも「ぼく」とまいは柏木美南の世界の人だから、この夫婦の物語という現実の物語をサンプリングしてしか 物語を作れない柏木美南によって作り出された柏木世界のラストなわけですね。とはいえこの夫婦の物語は 北口氏が言ってるだけだし死体がくっついてるなんて尾鰭がついてるから嘘臭いですけどね。 〜エピローグその3(現実世界)〜 現実の須山隆治は本当にいやな感じのやつだった。 |
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